コワイガク(本当は怖い家庭の医学のウチ的略称)


・プレイバックto補足コワイガク

今回は、特別コラムとして2例を紹介します。


参考資料…小学館「ホームメディカ 家庭医学館」
     時事通信社「家庭の医学」


PTSD=心的外傷後ストレス障害
PTSD=心的外傷後ストレス障害という言葉がよく知られるようになったのは、1995年に起きた阪神大震災の時。これは、大きなショックの後ではなく、約1ヶ月ぐらい経って災害などの直接的な危険が去った後に起きるものをいう。PTSDを引き起こすのは、生命に危険を及ぼすほどの大きな事故や災害、戦争や拷問など、自分自身がこのような体験をするだけでなく、他人がこのような目に遭うのを目撃することでも発症する。


>PTSDの主症状
【侵入的想起あるいは再体験】心的外傷を受けた時の情景を、繰り返し頭の中に浮かんだり、
フラッシュバック(その情景を、あたかももう一度その場に戻ったかのように、ありありと体験する状態)を起こしたりする。

【回避・感情麻痺】フラッシュバックを起こしそうな場所に行けなくなる、外傷を受ける前と後では、自分が違ってしまい、人には自分の気持ちが通じない、他人と違って普通の生活は今後も出来ない、と思ってしまうという症状。

【覚醒亢進】悪夢やちょっとした刺激に大きな反応が起こる「驚愕反応」など。


正しく診断が付いていることが何より大切。大震災などの大災害とは違い、個人的な自動車事故などでは、本人が黙っていると、症状が見過ごされることもある。嫌なことを話すのは避けたいという症状のため、医者の前でも心的外傷のことを話さない人も多いという。治療には時間がかかることもあるが、家族は焦らず見守る態度が必要である。叱責・励ましは、孤立感を強めてしまうことが多いという。
消防隊・救急隊員など、大惨事の現場で働く人は、PTSDになる確率が高いため、毎日の仕事の後にグループミーティングをして気持ちを整理することが予防に繋がるという報告がなされている。


トリアージ
トリアージとは、医療現場での治療優先順位のこと。多数の怪我人が同時に発生した時に、トリアージ・タッグという識別票で治療の優先順位を示す。例えば、化学工場の爆発や旅客機の炎上など、多数の怪我人が出るような災害が発生したとする。救護にあたる医師の前には助けを求める人々が多数いる。何処から・誰から手をつければいいか―――こういった状況を整理する手法として、トリアージが使われている。怪我人の重症度を即座に判断し、治療の優先順位を決める。実際の大規模集団災害では、傷病者を4段階にトリアージし、4色のタッグを付ける。その分類は下記の通り。


第1順位(最優先治療群・赤のタッグ):比較的簡単な治療で生命を救える重傷者。窒息や多発外傷など。

第2順位(準救急治療群・黄のタッグ):短時間または数時間治療が遅くなっても生命に危険はないが、手術などのために入院が必要な負傷者で、ショック症状を起こしていない負傷者。脊髄損傷、中等度の火傷など。

第3順位(治療保留群・緑のタッグ):外来治療で対応できる軽傷者や歩行可能な人。救急車ではなく、バスなどで近くの医療機関への搬送が原則。

第4順位(不搬送群・黒のタッグ):明らかな遺体。多少の生命徴候があっても、生命を救える見込みがない絶対予後不良者。高度の頭蓋骨変形、脳脱出を伴う頭部外傷など。

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本当は怖い頭痛―――脳脊髄液減少症
そもそも、人間の脳は、脳脊髄液の中に浮かんでいるのだが、何らかの原因で液が漏れ出し、
生産と吸収のバランスが崩れて髄液が減少すると、様々な症状を引き起こす。低髄液圧症候群(ていずいえきあつ・しょうこうぐん)とも呼ばれるこの病気は、3年程前に発見された病で、まだあまり知られていない病気である。とはいえ決して珍しいものではなく、現在およそ5万人の患者がいると考えられている。


今回のケースにおける発病までの経緯
|足を滑らせ尻餅をついてしまう
|転倒した時の衝撃で、脊髄を覆っていた硬膜に小さな亀裂が発生、髄液が少しずつ漏れる
|髄液が減ったために脳が沈み込み、脳を覆っていた硬膜が引っ張られる(頭痛・倦怠感)
|病院に通うが原因が判らず、ドクターショッピングに陥る
|夫に仮病ではないかと疑われる
|家庭が崩壊、ついには離婚
|最初の脳神経外科医を受診、脳脊髄液減少症と診断
↓2週間後、無事に退院


この病気の7割は、適切な治療で回復が可能。しかし、病に気づくのが遅いと、今回のケースのように家庭崩壊など、取り返しのつかない事態になることも少なくない。また、若い患者の場合、引きこもりや不登校に間違われたまま放置されているケースもあり、交通事故の後遺症で苦しむ患者は、時として「精神的なものだ」「仮病ではないか」という視線に晒されることで、肉体的な苦しみ以上の苦痛を味わっているという。少なくとも、病名がはっきりとして、不完全ながらもそれを治療してもらえるというだけでも、患者の苦しみの半分は取り除かれるのである……。

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本当は怖い息切れ―――鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアとは、いわゆる「脱腸」のこと。ヘルニアの中でも、最も多く見られるのが、この鼠径ヘルニアである。鼠径靭帯(恥骨と腰の骨との間の靭帯のこと)の上方で、腹腔内の臓器が鼠径部(股の付け根)に脱出した状態をいう。脱出しやすいのは小腸と卵巣で、脱出した場所により「外鼠径ヘルニア」と「内鼠径ヘルニア」に分かれるが、大半は前者である。また、鼠径靭帯の下方で脱出しているものを「大腿ヘルニア」といい、治療上鼠径ヘルニアの一つとして扱われている。
今回のケースでは、鼠径ヘルニアの原因の一つとして運動不足が挙げられるが、何より自分の健康よりも、自分の地位を優先させてしまったことが彼の命運を分けた。


今回のケースにおける発病までの経緯
|軽い運動すらしなかったことで、さらに筋肉が薄くなり著しく衰える
|咳をした時、腸が腹圧によって押され、腹筋の衰えた部分から飛び出す
|押すと引っ込む腫れ
|股の腫れの中には、腸がぎっしりと詰まり、押しても戻らない状態に(大きな腫れ)
|血行が滞り、腸が腐り始める
|腐ってしまった腸がしぼみ、ついに亀裂が生じる(途中で痛みと腫れは消える)
|腸内の細菌が全身にばらまかれる
↓膀胱炎を発病。1週間後、【敗血症】により死亡


鼠径ヘルニアは、特に中年以上の男性に多く、年間およそ14万人が発症。しかし、病を恥ずかしがって、病院を訪れない潜在的な患者がかなり多いと推定されている。もし股の付け根などに腫れなどの症状がある場合は、恥ずかしがらず病院で検診されることをお勧めする。


【敗血症(はいけつしょう)】
身体のどこかに細菌による病気があり、ここから細菌が血液の流れに乗って増殖、その生産した毒素によって中毒症状を起こしたり、最近が血液の循環によって全身に広がり、二次的に様々な臓器に感染を起こす重い病。敗血症の原因となる細菌は色々あるが、多いのはレンサ球菌、ブドウ球菌など。肺の障害では、気管支喘息や肺梗塞などの症状が現れ、心臓の障害では心内膜炎の症状が現れる。
また、重症の敗血症では、皮膚や粘膜の出血斑が現れるが、これは播種性血管内凝固症候群(はしゅせい・けっかんないぎょうこしょうこうぐん=何らかの原因で血液が固まる力が高まり、主に身体中の毛細血管の様々な場所で血栓が作られる。こうして血栓が作られると、血小板や血漿に含まれる血液の凝固に必要な成分が大量に作られてしまうため、出血してもなかなか止まらないという状態になり、さらに血漿に含まれている血液を固まりにくくさせる物質や、血栓を出来にくくさせる物質、さらに酵素までもが働きを活発化、止血しにくくなる状態。英語名の頭文字をとって、DICともいわれている)が合併されたため。その他、関節炎や貧血、脾種など重い症状を起こす。

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ネクストカルテ―――「胃の痛み」「声のかすれ」
呂律が回らない、というのはたまにあるんだが・・・